それでも、愛していいですか。


バイトの帰り道、奈緒は例の公園でブランコを漕いでいた。

こんな時間に寄り道しているところを阿久津先生に見つかったら、また叱られてしまうだろうな。

奈緒はブランコを止めると、以前、ここで阿久津と話したことを思い出した。

『泣きたい時は、泣きなさい。そういう我慢は必要ない』

そう言って、頭を優しく撫でてくれた。

『一度目は身体が死んだ時。二度目はその人のことを語る人が誰もいなくなった時です。ですから、おばあさんのことをいつまでも語ってあげてください』

あの時の穏やかな阿久津の表情が蘇ったとたん、

『私は、妻を殺したのだよ』

冷徹な目をした阿久津が、それらを打ち消した。

うつむいたまま、ブランコの鎖をぎゅっと握り締める。

公園の横の道を車が通り過ぎて行くたびに、一瞬だけ公園の木々が明るくなった。

外灯には、たくさんの虫がたかっている。

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