箱の中の彼女
行き倒れとヒキガエル


 雨の中。

 夕方の買い物から帰ってきたら、家の裏に男の子が落ちていた。

 誰かにひどく乱暴されたように顔を腫らし、雨にうたれたせいか熱で動けないその子を、美奈子はズブ濡れになりながらも、なんとか家に運び込んだのだ。

 救急車は、呼ばなかった。

 どう見ても、ワケ有りだったからだ。

 救急車で運ばれた後は、すぐに警察を呼ばれるだろう。

 そう思ったら、つい昔のクセで家で、なんとかしようと思ってしまったのだ。

 身体を拭いて着替えさせ、布団に押し込む。

 まだ高校生くらいに感じるが、やせている割には筋肉質だ。

 スポーツでも、やっているのだろう。

 そう考えると、美奈子は尚更救急車を呼べないと思った。

 どう見ても暴力沙汰で。

 それが、表沙汰になるのを、この子が望んでいるかどうか分からなかったのだ。

 ふぅ。

 美奈子は、ため息をついた。

 苦しそうな彼を見下ろしながら、父親を思い出していたのだ。

 父は、よく殴られたり刺されたりして帰ってきていた。

 母親と二人で、何度父親を担いだことか。

 本当に、年をいくつ重ねても大問題児だった。

 けれども、美奈子には一度だって手を上げたことはなかった。

 とても可愛がってくれたおかげで、いまでも父親のことはため息をつきこそすれ、いやな思い出にはなっていない。

 問題児が過ぎて、駆け足で逝ってしまったのが残念だが。

 母親は、いまもピンピンと元気だが、祖母の介護の関係で田舎で暮らしている。

 いま、この小さい平屋の家を守っているのは、美奈子一人だった。

 そんなところに、ワケありの男の子を連れ込むなんて、物騒にもほどがあると言われるかもしれないが、昔から父親絡みで、やたら物騒に直面していた彼女は、たいしたことには思えなかったのだ。

 若いし、体力もあるから大丈夫そうね。

 ため息をつきながらも、美奈子は少し笑ってしまった。

 何だか、父親が帰ってきた気がしたのだ。

 険しい表情をしているのも、似ている気がする。

 ただ──随分と、若返っていたが。
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