箱の中の彼女
□

「美奈子さん…結婚しませんか?」

「「ダメよ」」

 斬り捨て御免!

 というカンジで、孝太は真っ二つにされた。

「「まだ、チャンピオンになったばかりでしょ? 調べたんだけど、義務的な試合が、1年以内にまたあるみたいだし…大事な時じゃない」」

 う。

 そうなのだ。

 チャンピオンになると、定期的にタイトルマッチがやってくる。

 これから、孝太は防衛戦をやりまくらなければならないのだ。

「じゃあ…じゃあ、何回防衛したら結婚してくれますか?」

 彼なりに、真面目に考えている。

 美奈子が、どうすれば自分を伴侶と認めてくれるか、一生懸命考えているのだ。

 その目標があれば、孝太はもっと頑張れる気がした。

 なのに、美奈子は微笑むのだ。

「「そういうことを…言わなくなったら、ね。防衛戦って、甘いものじゃないんでしょう?」」

 言われて、ぐうの音も出なくなった。

 その通りだ。

 その通りなのだが。

「じゃあじゃあ…美奈子さん、ひとつだけ約束してください!」

 いますぐ結婚ということは、あきらめる。

 ボクシングもしっかり頑張る。

 だから、ひとつくらい孝太は飴が欲しかったのだ。

 美奈子からもらえる飴ならば、どんな味でも形でも喜んで受け取る。

「オレと結婚するまで…誰とも結婚しないって約束してください!」

 そんな必死な孝太に、彼女はくすくすと笑う。

「「孝太くんの方が、他の可愛い子にふらふらいっちゃうかもよ」」

「行きません! 絶対! 約束します!」

 孝太は、小指を突き出した。

 美奈子は、少し懐かしそうにその小指を見る。

「「じゃあ…お互い約束ね」」

 ゆびきりんげんまん。

 嘘ついたら、針千本のーます。

 薬指をつなげたまま──孝太は、歌う彼女の唇に吸い寄せられていた。
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