涙のあとの笑顔
「立っているじゃん」
「そういう意味じゃありません!」
「二人とも、その辺にしておきなよ」
 言い合いは続き、止みそうにない。見学しようとしたとき、ニールさんに軽く腕を引っ張られ、そのまま中央へ歩き出した。
「ニールさん?」
「せっかくですので、私とも一曲踊ってください」
「はい」

 今日はいろいろな人と踊るな。ダンスパーティってこんな感じなのね。

「少し緊張します」
「緊張?」
「はい、実はルアナや他の学生達に誘われてここへ来たのです。学生達となら、練習として何度か相手をしましたが、やはりフローラと踊ると少し照れます」
「ふふっ、やっぱり何度も踊った人だとリラックスできちゃいますよね」
「それもありますが、フローラは可愛らしいから」

 こんな密着している状態でそんなことを言わないでください!

「そ、そんなこと・・・・・・」
「林檎のようになりましたね。体温がどんどん上がっています」

 ちょっと待って、この人、絶対緊張なんてしていないよね!?からかう余裕があるくらいだから間違いない。

「からかわないでください」
「私は事実を言っているだけです」

 そんな胡散臭い笑顔を向けられても困ります。

「あなたが学生だったら良かったのに、そしたらもっと可愛がることができますから」

 それに別の意味が込められているのは気のせいだと思いたい。
 この人、ちょっと油断していたら遊び倒しにかかってきそう。

「ニール先輩、何逃亡するためにフローラを利用しているのですか!?」

 曲が終わって数分後にルアナが近づいてきた。

「ルアナ、ごめんね?お詫びにこうするから」

 すっと私から離れて、ルアナの頬を優しく包んだ。何だか甘い雰囲気になりそうなので、視線を逸らしていると、笑い声が聞こえた。

「ニールさん?」
「見てください!プニプニしていてよく伸びますよ」

 ルアナの頬を引っ張って遊んでいる。さっきの色っぽい表情は演技?抵抗しているルアナを見ながら遊び続けている。まるで小さな子どもが新しい玩具を見つけて遊んでいるようだ。

「フローラ、助けて!」

 我に返り、慌ててニールさんの悪戯を止める。ルアナの頬はほんのりと赤くなっている。

「楽しかったです。満足しました」
「こっちは不満です!」
「フローラ、止めたってことは今度は自分にもして欲しいという願いだからですか?」

 きゃあああ!今度はこっちに狙いを定めてきた。
 必死で拒否しているのに、どんどん近づく!

「そのくらいにしてもらえる?」
「ケヴィン!」

 後退していたとき、ケヴィンに肩を掴まれた。

「うろちょろとしない」
「ううっ・・・・・・」
「その子があんまりにも物欲しそうにしていましたから、つい・・・・・・」
「先輩!フローラまで犠牲者にする気ですか?もう行きますよ!」
「では、失礼します。また会いましょう」

 ルアナに引っ張られながら、手を振っているので、手を振り返した。

「フローラ、その無防備さは何とかならないの?」
「どうすることもできないよ」
「俺の前だけでいいのに・・・・・・」

 返事に困っていると、ケヴィンが私の手の甲にキスをしてきた。

「今日は一緒に寝るから。いいね?」

 受け入れることも拒否することもできず、ただ困惑することしかできなかった。 
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