涙のあとの笑顔
 名を呼んだが、閉められたドアの音でかき消された。私はそのまま座り込んだ。
 どうして急に犯人が現れたの?レイバンお兄ちゃんの居場所を突き止めたってこと?

「はぁ・・・・・・」
「溜息なんてついてどうした?」

 飛び上がり、後ろを見ると、窓から部屋に入ろうとしているレナードがいた。
 犯人、まさかこの人じゃないよね?それはないわね、馬鹿馬鹿しい。

「堂々と入らないで!」
「静かに入っているぞ?」

 そうじゃない!いつも私の部屋を占領してどういうつもりよ!?

「それでどうした?」
「あなたに関係ない」

 今のはちょっときつい言い方だったかな?

「あれ?機嫌が悪そうだな。じゃあ、出直すか。新情報を持ってきたが、必要ないよな?」

 新情報?何それ?

「じゃあな」

 慌ててマントを掴むと、レナードは悪い笑みを浮かべていた。

「何だ?」
「行かないで」
「それは理由にならないな。もっとはっきりと」

 どうやら徹底的に言わせたいようだ。

「情報、教えて!」

 今度はレナードが深い溜息を吐いている。

「もう少し俺好みに強請ることはできないのか?はぁ、いいか」

 もう、じれったい。さっさと教えてよ!

「ニールのことを知っているよな?」
「うん、魔法大学に在学中の人だよ。その人がどうかした?」
「妙な気配を感じる」
「どういうこと?」
「あいつを初めて見たのはあのパーティのときだ。あのときから何か獣のような目つきを時折するんだ」

 そんなものを私はまだ見たことがない。

「悪人ってこと?」
「そこまではわからないが、用心すべきだろう?アンディも警戒心が前より強くなっているみたいだからな」

 レナード、気づいていたんだ。
 ここまで言われると、確かに無防備でいることが怖くなってきた。まだ悪人と決まっていないが、もしも、そうだったときに何もできなかったら大変。気をつけなくちゃ。

「あまり二人きりになるなよ?いいな?」
「うん!」
「よし、いい子だ」

 言われてみれば、ニールさんはいつだって偶然を装って、私の前に姿を現すことが多かった。音も気配もなかったから驚かされてばかりだった。それをからかっていると考えていたが、それが違う意味だとすると、ぞっとする。
 できることなら悪人でなくて、学生のからかうのが好きだけど、優しい二ールさんのままがいいよ。
 それを伝えると、今日は珍しく、さっさと部屋から出て行った。
 ニールさんのことを思いながら、ずっとベッドに横になっていた。あんなことを聞かされたら、何もやる気がおきない。
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