涙のあとの笑顔
 本当は別のものを頼みたかったが、時間が遅いので、やめておいた。

「私ね、ケヴィンは甘いものをあまり好まない人だと、初めは思っていた」
「どうして?」
「薄味のものが好みかなって、勝手に想像していた」
「薄味のものは好きだよ。けど実際は違っていたね。甘いものもいつも食べるわけではないけど、好きだよ」
「あとから知った」
「フローラと同じだね」
「う、うん」
「こうして好きなものが同じだと、仲のいい恋人に見られるね」
「またそういう恥ずかしいことを言う」

 何人か女の子が振り向いたが、できるだけ平静を装った。
 先にドリンクが来た。私はアイスミルク、ケヴィンはアイスカプチーノ。
 飲んだら喉の奥がひんやりと冷たくなった。ぎゅっと目を瞑ると、ケヴィンは笑っていた。

「そんなに冷たかった?」
「うん、ケヴィンはどうもしないの?」
「まあね」

 あとから店員が二人分のデザートを持ってきた。

「以上でよろしいでしょうか?」

 さっきの店員と別の店員が来た。彼女はケヴィンにだけ話しかけている。
 ちょっと、それは客に失礼じゃない?
 媚びた笑顔が目立っているけれど、本人は無表情でいる。

「うん、いいよ」

 笑みを浮かべたまま頭を下げ、後ろを向いた瞬間に不満げな表情になった。その表情はどうかと思う。
 先程の店員のことはこれ以上考えず、目の前のものに目を向けた。嫌なことは甘いものと一緒に消してしまおう。
 
「頬が緩んでいる」
「だって美味しいから」
「城に戻ってから、少ししたら食事だからね」
「いつも部屋まで持ってきてくれるからね。イーディにもシェフにも感謝だね」

 もちろんこの二人だけじゃない。多くの人達に支えられている。

「それを聞いたら喜ぶだろうな」

 店を後にして、城に戻ったのはそれから一時間後のこと。

「いつも贅沢なものばかり食べているから太っちゃうね」
「何言っているの?細いくせに」
「そうかな?」
「食べても太らない体質だよね、フローラ」
「でも食べ過ぎには気をつける。油断していたら、後が恐ろしい」

 いきなりケヴィンは鼻にキスをしてきた。

「な、何!?」
「きちんと考えているからいい子だなって、鼻は嫌だった?」

 そういうことじゃない!
 年頃の娘にこんなたくさんキスをするのはどうかと思うの!
 いつかおかしな病気になってしまいそう。

「ケヴィンなんて知らない!」
「照れを隠すために怒っていても、俺を気分良くさせるだけだよ?」

 この人にかなわないと思ったことは何度もあるけど、それでもいつか逆の立場にしたい!

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