涙のあとの笑顔
「フローラ!」

 さっきより風が強くなっている。そう遠くには行っていないはず。
 視界の端で何かを捉えた。気になったのでよく見ると、そこにはずぶ濡れで倒れているフローラがいた。全身が冷たくなっていて、顔は青ざめている。

「この馬鹿!」

 城へ戻り、フローラと一緒に風呂に入った。服を脱がせて初めてフローラの全身を見ると、いくつもの傷跡があり、驚きを隠せなかった。

「ひどい・・・・・・」

 そのときフローラの目が開いた。裸を見られたと騒ぐだろうかと考えていると、すぐに閉じた。
 浴室を出て、着替えを済ませた。髪を念入りに乾かしてから、部屋に戻った。
 夕食を持ってきたイーディが慌てて駆け寄ってきた。

「どうしたの?」
「ちょっとね。フローラが寝ているから静かにね」
「顔色が悪いわ」
「雨に打たれたから。それとこの子と寝る。夜中に起きて、お腹が空いたら何か食べさせるから、とりあえずそれをさげて」
「ケヴィンは?食べないの?」
「フローラと食べるから」

 イーディはそれ以上何も言わなかった。

「わかったわ。おやすみなさい」
「おやすみ」

 フローラを見ると、さっきよりほんの少しだけ顔色がましになっている。
 この子がここへ来たばかりのとき、イーディが入浴の手伝いをしようとしたが、強く拒んだことを聞いていたが、その理由が今日ではっきりとした。

「俺にも傷跡があるから見られたくないと思うよ」

 剣を振るい、魔法を使う仕事が多いので、常に無傷でいられない。じゃあフローラは?何でこんなに大きな傷ができているのだろう。傷はだいぶ前につけられたものだとわかる。昔のフローラを俺は知らない。
 だけど俺は惹かれる一方だった。自分でもここまで女の子を好きになるなんて思わなかった。

「離れていかないでよ」

 俺を受け入れてほしい、見てほしい、話をしたい、触れたい。
 いくつもの欲望が自分の中で増えていく。それは俺もフローラもどうすることもできないことだった。
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