涙のあとの笑顔
「今夜はフローラの夢を見たい」

 恥ずかしいことをサラッと言われてパニックになる。

「そんなことを急に言わないで!」
「だってさっきから思っていたから。夢でも会いたい」
「だったら夢の中の私は何をしているのかな?」

 ケヴィンは少し考えてから口を開いた。

「お菓子を食べているとか?」
「私、そんなに食べているかな?」
「それを俺が横からパクッと食べる」

 食い意地が張っている。

「夢の中でも怒られているの?」
「怒ったフローラか。怖いな」
「そう言いながら笑っているケヴィンが怖いよ」

 実際、全然怖がってなんかいないじゃない。

「フローラがぬいぐるみだったらいいのに・・・・・・」

 どうしたらそんな話に飛んで行ってしまうのか。

「話が飛んでいるよ、ぬいぐるみ?」
「そう。そしたらずっと一緒にいられる。逃げられる心配もなくなる」
「私がそうなったら、こうして話をすることができなくなるよ」
「それは寂しいな。どうしたものか・・・・・・」
「私は人間だよ」
「そうだったね」

 本当に忘れているような言い方だった。

「そうだったねって・・・・・・」
「フローラ」

 声のトーンが低くなった。

「このまま時間が止まればいいのに」
「そんなことを願うのね」
「フローラの願いは何?できることならいくつも叶えたい」
「私の願い?」

 願って、叶うのであれば私は・・・・・・。

「今は思いつかない」

 嘘。本当の私の願い、幸せになりたい。
 ケヴィンと同じ願い。
 だけど言葉にすることができなかった。

「いつか教えて?」

 私よりも私のことを知っているのではないかと思って、ときどき怖くなるよ。
 何もかも見透かされているような気がしてならない。
 私は小さく頷いて返事をした。ケヴィンはそれを見逃さなかった。
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