涙のあとの笑顔
 目の前の人物はにっこりと微笑んでいる。

「幻覚?」

 そうだよね、疲れが溜まっていたから。
 あれこれと考えるようになったから幻覚を見るようになったのね。

「ちょっと、フローラ?」

 もしかしてレナード?彼は身長が高いから無理ね。

「寝よう」
「待って!」

 ベッドへ向かおうとしたら肩を掴まれた。

「せっかく来たのにどうして知らんぷりするの?」

 話している人物は悲しげな表情に変わっていた。

「本人?」
「もう、当たり前でしょ?」

 肩の痛みを少しだけ感じながら、やっと幻覚ではないと理解した。

「カレン様!どうして?」
「あら?他人行儀になっているわよ?」

 注意を受けて、すぐに呼び捨てにした。

「ようやく話ができたわ。さっきからおかしなことばかり言うから」
「えっと、どうしたの?」
「せっかく友達になれたのにあまり会えなかったでしょ?今日は時間が会ったから来たの。イーディが部屋にいることを教えてくれたわ」
「あの、その本人はどこに?」
「今は大切な人と話をしているからしばらくは戻れないわね」

 大切な人って誰だろう?
 カレンとはあのお茶会以来会うことはなかった。姿を見つけたとしても距離があり、手を振ることが精一杯だった。

「本当は薔薇園に誘いたかったけど、見ての通り、悪い天候だから」

 カレンは残念そうに肩を落とした。
 私もカレンも薔薇園はお気に入りの場所の一つなので、時間があるときに薔薇を見に行っている。

「入って。中でゆっくり話そう」
「良かった。楽しみにしていたのよ」

 カレンと久しぶりにお喋りをしたり読書をしたりしてとても楽しかった。
 わざわざ来てくださるなんて思ってもみなかった。
 本当は私から行くべきよね!?姫様に足を運ばせてしまうなんて!
 ここの人達には驚かされてばかりいる。

「この間の王都での事件、あなたが解決したのよね?聞いたときは信じられなかったわ」
「いえ、大したことはしていないよ」
「駆けつけた騎士達がしばらくの間、その話で持ちきりだったのよ」

 あれから数日間は以前よりさらに人に見られることが多くなった。
 ケヴィンは鬱陶しいとばかりに不機嫌になっていた。イーディの話によると、私に少しでも近づこうとした異性を威嚇して遠ざけていたらしい。

「ふふっ、あのときのケヴィンの顔ときたら・・・・・・」

 どうやらカレンも見たらしく、思い出し笑いをしている。

「あなたのこととなると、彼は冷静さを失うのね」
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