涙のあとの笑顔
薔薇と酒
「今日は城の中を案内してあげる」

 ケヴィンが部屋に来てすぐに言った。

「城?本当!?」
「うん」

 とても嬉しかった。部屋の中にいても、退屈だし、嫌なことばかり考えてしまう。
 だから外に出て、気分を変えることができればいいのにと思っていた。
 部屋に来た彼の格好は制服姿で、ボタンもしっかりととめられていて、マントを優雅にまとっている。
 かっこいい。凝視しないように注意しながら見ていた。

「早速行こう」
「うん!」

 二人で部屋を出ると、最初に見えたのは長い廊下だった。窓からは日の光が差し込んでいて、眩しいくらいだった。
 イーディのようなメイドさんやケヴィンのような騎士様達がたくさんいた。
 最初は多過ぎだと思っていたが、城がかなり大きいので人数に納得をした。
 ケヴィンを見つけたときのメイドさん達の反応がすごかった。真剣に仕事をしていると思ったら、ケヴィンに礼をとり、通り過ぎた後は溜息を吐くものもいれば、歓声を上げるものもいる。
 どのメイドさんを見ても思ったが、美人で爪や髪、服装ときちんと整えている。華やかだとも思った。
 メイド服が可愛かったので、どの人も似合っていた。
 廊下の先に階段があり、階段を下りて、歩いていくとドアがあった。その向こうには薔薇がたくさん咲いていた。

「わぁ!」

 薔薇園は広いが迷う心配はなかった。
 もっと複雑な迷路のようだと考えていたけど、違っていた。

「ここではときどきお茶会をして、楽しいひとときを過ごしている」
「そうなんだ」

 右を見ても左を見ても、薔薇があり、ゆっくりと進んで行くと、噴水があった。
 綺麗。噴水の水が日の光できらきらと輝いている。

「どう?気に入った?」
「とても!」
「それは良かった」

 薔薇ってこんな香りがするんだ。すうっと息を吸い込んだ。
 いつも独りを感じていた。どこへいても、何をしても同じ。自分の家が今は誰かに消されて、もうなくなってしまった。むなしさが心を支配し、じわじわと蝕もうとしていた。

「フローラ」

 私を呼ぶと、静かに抱きしめた。私も抵抗をせずに抱かれたままだった。
 そのあと部屋まで戻り、会話もせず、二人で寛いでいた。
 少し時間が経ってから、ケヴィンは用事のために出かけた。
 時間を作って、わざわざ城の一部を案内してくれた。

「ありがとう」

 本人には届いていないけど伝えた。
 何で本人に言わなかったのだろう?
 出て行ってから後悔した。ここへ来てもう二週間になる。時間はあっという間に過ぎていく。
 城のことは少しずつわかった。料理場やメイド達の部屋、騎士達の部屋、大広間、図書館などがある。城の中だけでなく、ケヴィンのことも少しは知った。
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