涙のあとの笑顔
「逃げるつもりなんて・・・・・・」
「ない?だったら態度で示してもらおうか」
「態度?」

 レナードは立ち上がり、私をじっと見たまま、後ろへ少し下がった。

「ここまで来い」
「はい?」
「逃げないって言うのなら、ここまで来い」

 よろよろと立って、レナードのところへ行った。彼を見つめたままでいると、笑みを浮かべ、グッと抱き寄せ、密着状態となった。

「どうして抱きしめているの?」
「わからないのか?それとも演技か?」
「演技じゃない」
「じゃあこうすればわかるよな?」

 顔を上げた瞬間、レナードとキスをしていた。名前を呼ぼうにも、口を塞がれていては何もできない。解放され、息を吸い込むとまたキスをした。何度も角度を変えながらするので、力が抜け、視界が少しぼやけた。

「昔とは違うキスだ。良かっただろ?」

 反論したいが、その前に呼吸を整えなくてはいけない。声が出せない悔しさを込めて、両手で彼の肩を押した。

「おっと、危ないな」

 よろめきはしたものの、倒れることはなかった。

「誰も許可をしていない!」
「目を潤ませて見ておいて、よくそんなことが言えるな」
「それはさっき泣いていたから」
「昔もキスをしていただろう?」
「そ、それは・・・・・・」

 確かに昔はキスをしていた。
 けれどそれは彼からのキスばかりだった。小さな子にするキスだったのか、何度も泣いていた私を慰めるためだったのか、どちらかだろうと思っていた。

「また夜泣きか?」
「ぐす、ひっく・・・・・・」

 夜になると静けさと暗さが恐怖心や悲しさを煽り、よく涙を流していた。一人ではないので、できるかぎり声を押し殺していたがあっさりとばれた。どんなに泣いても無駄だとわかっていながらも止めることはできなかった。私が泣く度に涙を拭い、抱き寄せ、キスをしてきた。初めは黙らせるための行為だと思っていたので、謝罪をした。

「力を抜いてこっちに寄りかかれ。俺がずっと抱きしめてやるから」

 暗闇の中にいたけど、光はあった。小さな光は私をそっと包んでくれた。
 そう思いながら目を閉じると、夢の中へ誘われた。

「寝たな」

 腕の中ですやすやと寝ているフローラを見ると、不思議なくらいに気持ちが安らぐ。
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