涙のあとの笑顔
 数種類のデザートがキラキラと光っていた。その中の一個のケーキにフォークを突き刺し、口の中へ入れると、もっと甘いのかと思っていたが、しっとりとした触感でほんの少し苦味があった。

「これ、ビターチョコに似ているね」
「ステラは苦手?」
「ううん、でも、大人の味って感じがするよ」

 遠くからケヴィンを見ると、アンディさんと話していたが、私を見てからすぐにアンディさんに話しかけられ、視線を戻した。
 やっぱり警戒心が消えない。この子が近くにいると、どうしても不安に陥ってしまう。これ以上、私のせいで見えない凶器で傷つけたくない。

「ごめんね」
「ん?何が?」

 無意識に声を出していたみたい。ステラは目を丸くして私を見ている。首を振って、別のものを食べた。ステラもそれ以上は何も言わず、デザートを堪能した。

「ステラ、クリームがついているよ。子どもね」
「フローラもさっき、取ってもらっていただろう?」
「レナード!?いつからいたの?」
「二人揃って真剣にケーキを食べているときから」

 ずっと見ていたってこと?勘弁してよ!アンディさんとのやりとりも見ていたようだ。

「何か話が会って来たのよね?」
「おちびちゃん、友達がその辺りを歩き回っていたよ?会いに行かなくていいのか?」
「えっと、行くね?お姉ちゃん。教えてくれてありがとうございました」

 ステラは食べてから休む間もなく、友達に会いに行った。

「さてと、俺達も行くか。邪魔者が来ないうちに」
「ちょっと、どこへ?」
「すぐにわかる」

 着いた先は階段のあるところだった。普段はほとんど使わない階段で、歩き進みながらわかったのは時計塔の中だったということ。

「お嬢ちゃん、最後までそれを持ち続けていたな」

 それとはケーキのこと。レナードが食事をしたのかわからないが、ケーキを一切れあげた。口に入れてまもなく、苦しそうな顔になった。慌てて傍に寄ると、両手で頬を挟まれてキスをされた。
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