甘え下手
どうかしたのはお前の方だろうが。


「……鴨」

「え?」

「食べに行ったんだろ? 室長と」


ピクンと彼女の頬が一瞬引きつったけれど、次の瞬間にはまた元の表情に戻って、照れ笑いした。


「はい。鴨美味しかったですよー」


誤魔化してる。

一瞬の表情の変化で、あれが幻じゃなかったことを悟った俺は、百瀬比奈子が何があったか隠そうとしているんだと感づいた。


「……なんかあった?」

「え……?」


今度はハッキリと笑顔が強張った。

だけどそれもまた一瞬で、修復される。


「告ってフラれでもした?」


だから俺は残酷だと分かっていても、もう一歩踏み込んで聞いてみた。

あくまで冗談っぽくだけれど、内心は彼女の核の部分に触れようと躍起になっていた。


その先、どうしたいかも決めていないのに。
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