甘え下手
先に口を開いたのは百瀬比奈子の方だった。


「あ、この間はありがとうございました」

「この間?」

「鴨食べに行った日。飲みすぎちゃってすみません。家まで送ってもらっちゃって」

「……ああ」

「お兄ちゃんに怒られちゃいました。女が男の前で飲みすぎるなーって」

「まあ、そうだな」

「鴨がネギしょって歩いてる状態のくせにスルーされてるって笑われましたけど」

「……まあ」


どうでもいい話を聞きながら、百瀬比奈子の様子をじっと観察する。


ぺらぺらしゃべって、時折へらっと笑って。

いつもと違う様子はどこにもない。


あの日、見た彼女が幻だったんじゃないかと思うほどに。


「阿比留さん、どうかしましたか?」

「は?」

「いや、なんかぼーっとしてる感じがするから。体調悪いですか?」


あげくの果てには俺が心配される始末。
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