甘え下手
「フラれたら俺が慰めるって約束したろ?」


だから俺には知る権利があるんじゃねえ?

そんな言い訳がましい思いを込めて言うと、その約束自体うろ覚えだったのか、彼女はギョっとした表情をした。


「え? えっ、アレ本気でですかっ!?」

「身体で慰めるってヤツ」

「会社で変なこと言わないでくださ……っ」


また慌てて俺の口を塞ぎに飛びついてくるから、今度は逃げずに口を塞がれてやった。

唇に当たる、百瀬比奈子の小さな手の感触。


彼女の手は冷たかった。


変な体勢だ。見ようによっては彼女が俺に抱きついているような。

さすがに社内でこれはマズいか。


人が来ないのを横目で確認していると、我に返ったらしい百瀬比奈子が反復横跳びかって勢いで、もう一度飛んで離れた。

相変わらず面白いヤツ。


「気が早くないか、比奈子ちゃん」

「き、気が早いのは阿比留さんです。私が告白なんてできるはずないじゃないですか」
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