甘え下手
だけどそれでもこの子は泣かない。

目を伏せたまま、「へへ」と照れ隠しに笑った。


「変なこと言ってすみません」

「べつに……」


この子はホントにたまに痛いところをついてくる。


バラバラに砕いたって、なくならないものはなくならねえし。

そんな痛い思いするぐらいなら、もうやめちまえ。


ギュウッと彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。

たとえば雨の中、ずぶぬれで震える子猫を見つけたときのように。


「……なんかあったんだろ」

「……」

「言わねえの?」

「……」

「場所変えるか? 俺んち来る?」

「そ、それはどういう……」


家という単語を聞いて、百瀬比奈子が急にキョドる。

完全に”身体でなぐさめる”の約束を頭に描いていることが丸分かりで、その素直な反応がおかしくて笑えた。
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