甘え下手
「え?」


百瀬比奈子が驚いたように顔を上げる。

それを見て自分の言ったことの意味に気づく。


これじゃ、まるで今の状況を俺が嬉しいと言っているみたいだ。


いつもの通りの冗談だと笑い飛ばせばよかったのに、そんなつもりじゃなかったという思いが先行して、言葉が出なかった。

それがまた言葉の真実味を増したのか、百瀬比奈子の頬がポッとピンク色に染まった。


「……」

「……」


なんだこのむず痒い空気は。


「……阿比留さん?」

「なに」

「お、怒ってます……?」

「いや。なんで?」

「眉間にシワ寄せて怖い顔してるから」

「いや、悪い。べつに怒ってないから」

「そ、そうですか」


もしかしたら俺は百瀬比奈子と恋愛偏差値同レベルなのかもしれない。
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