甘え下手
「さあて、始めちゃおうかな。まだ早いかな」


卓上コンロをダイニングテーブルに置いて、百瀬比奈子は打って変わってご機嫌な様子だ。

思い通りの味つけに仕上がったらしい。


コイツ、ホントに落ち込んでんのかよ。

つられてこっちの表情も緩んでくる。


「なあ、量多すぎじゃね?」

「このぐらいでいいんですよー」


百瀬比奈子と櫻井室長の間に何があったのか、気にならないわけじゃなかったけれど、こうして彼女が俺のテリトリーに入るまで心を許してくれたんんだと解釈して、食事の後にゆっくり聞きだせばいいと思っていた。

だから今はこのゆったりとした時間を楽しめばいい。


そんな考えは、百瀬比奈子のバッグから聞こえる着信音で遮られた。


「あっ、ちょっとすみません」


いそいそとスマホを取り出して、電話に出る彼女になんだか嫌な予感がした。

何故ならば、まるで電話がかかってくることが決まっていたかのような態度だったからだ。
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