甘え下手
「阿比留さん、さーちゃんが着きました」

「は!?」

「さーちゃん、どうしても阿比留さんの顔見て謝りたいって、だから」


「一緒でもいいですか?」なんて上目使いで頼まれて、嫌だなんて言う選択肢は明らかに残されていなかった。


「べつにいいけど」と言ったそばからインターホンが鳴る。

もう呼んでんじゃねえか。


確信犯だろ、百瀬比奈子。


「それで、今日に限って大胆行動だったわけだ……」

「大胆行動ってなんですか。おわびのご飯作りに来ただけです」

「てっきり俺に身体でなぐさめられにきたのかと……」

「だからまだ失恋決定打もらってないですってば」


どうでもいい憎まれ口を叩きながら、俺は自分の心が想像以上に萎えているのに驚いていた。


べつに二人っきりだったからって、何もなかっただろうに、何か期待してたのか? 俺。

手の内に入ってきたと思ったらするりと逃げられる。


案外、この子。天然小悪魔だったりして。


「……それはないか」
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