甘え下手
さーちゃん
「ねえ。さーちゃん、ハートのピアス最近つけてないね」

「ああ、ダイヤの? あれ、なくなっちゃったんだよねー。お姉ちゃん見なかった? もしかしたら前彼の家かもー。サイアクー、気に入ってたのに」

「そう……」


ダイヤの散りばめられた小さなハートのピアス。

キラキラ光って、心臓まで突き刺すような煌めき。


私はそれをつい最近、見た。


だけどピアスぐらい。

さーちゃん忘れんぼだし。


頭をよぎる可能性を必死でかき消す自分がいた。

そして私は意識的にそのことに関する思考をシャットアウトした。


だって描く限りの最悪のシナリオをたどってしまったら、私しばらく立ち直れそうにない。

少しずつ少しずつ、覚悟を決めさせてください。


”失恋”と”諦める”覚悟を。


だけど会社に行けばフロアには櫻井室長がいる。

目が合えば優しく微笑んでくれる。
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