甘え下手
黒髪に黒ぶち眼鏡できっちりスーツを着込んでいる彼は、参田さんとはまるでタイプが違うけれど、案外二人は仲がいい。


「はい。参田は別の出張に出ていまして」

「百瀬さんお一人ですか? よかったら夜一緒にどうですか?」

「へっ? わ、私とですか!?」


思わず声が裏返る。生まれてこの方、こんな風に親しくもない男性から誘いの言葉をかけられたことなんてない。


「I社の課長さんとお食事の約束がありまして、その席に百瀬さんもご一緒にどうですかと言いたかったんですが」

「え? あっ、そうですよね。ハハ……」


ニコリともせずに冷静に訂正されるとこっちは猛烈に恥ずかしい。

やっぱり私が誘われるなんてないよね。


I社にはうちのレーザースキャナを納入させてもらっている。

宇野さんのところも別の測定レーザーを。


用途が違うから競合しているわけじゃない。だから呼んでくれたんだろうけど……。


「男ばかりでは華がないので」

「はあ……」


接待用の華としての役割を期待されているのもまた困ってしまう。


どうしよう。会社の為には行った方がいいよね?


私も参田さんばりに仕事ができなくても、少しは役に立ちたい。
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