甘え下手
二人きりの出張
行きの新幹線。緊張のあまり寝てなかった影響が出て、私は大阪に着くまでまんまと眠りこけてしまった。

展示会場。慣れない櫻井室長とのペアとはいえ、参田さんよりもずっと手伝ってくれるからかえって楽な位だった。


ブランクがあるのに持ち前の人当たりの良さで接客もなんなくこなす。

目標としていた名刺交換の数も名簿記帳人数も早い段階でクリアできた。


「百瀬、悪い。セミナーちょっと聞いてきていいか」

「あっ、ハイ。もちろんです!」


途中で櫻井室長が目的だったK大教授のセミナーを聞きにセミナーブースへ行ってしまい、一人になった。

ぼんやりしていると同業者の人がブースを見に来て声をかけてくる。


ライバル企業だからもちろん必要以上に情報を漏らしちゃいけないんだけど、市場の動向やら扱っている精密機器の開発事情等は世間話程度に情報交換している。

世の中の流れを知る。モノを売るには重要なこと。


特に私達みたいに病院や企業向けの精密機器を扱ってるメーカーは、企業同士の横のつながりが大事だ。


「今日、参田さんいないんですか?」


いつも声をかけてくれるライバル社の宇野さんは参田さんと同じくらいの年齢の男性だ。
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