甘え下手
「いつもじゃないですけど、営業活動を円滑にする為には、参加した方がいいかなって思ったんです」

「あながち間違いでもないけど……、まさか一人で行くつもりだったのか?」

「え、だって宇野さんと二人きりじゃないですよ? I社の甲斐さんも一緒だし」

「それでも百瀬は女の子だろ? 誘われたりしたらどうするつもり? 誰が助けてくれるの?」


いつも優しい櫻井室長に厳しい目を向けられて私は怯んだ。

おろおろと視線をさまよわせるけど、こんな時に限って見学に来てくれるお客さんもいない。


パーテーションで区切られた商談机の横で二人きり。

密室ではないけれど逃げ場がない。


「ていうか私のこと誘おうなんて物好きはいないですよ、アハハ……」


現にさっきだって誘われたかと勘違いしちゃったけど違ったし。

私の乾いた笑いだけが小さくブースに響いて、櫻井室長はこめかみを押さえて、ため息をついた。


「そんな風に思ってるのは百瀬だけだ。皆はちゃんと百瀬のこと女性として見てるよ。いつまでも子ども気分じゃ、いつか痛い目に合う」

「……じゃん」
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