甘え下手
私は誰も見ていないのにベッドの上に正座して、神妙な面持ちでシャワーの音が止むのをじっと待っていた。

隣の部屋の物音を探るなんてストーカーもいいところだ。


だけどこのままでなんて、とても眠れないし、櫻井室長も何かあったかと心配しているかもしれない。

そう思うといてもたってもいられなくて、水音が止むとすぐに隣の部屋へ向かった。


うかがうように軽くノックをすると、「はい?」と少し驚いたような声が聞こえてドアが開けられた。


「百瀬?」


櫻井室長はスエット姿で濡れた髪をタオルで拭いている最中だったらしい。

私の顔を見ると驚いた表情を見せたけれど、私が情けない顔をしていたからか、すぐに部屋へと招き入れてくれた。


「起きたか。やっぱり不慣れな俺とのコンビで疲れてたんだろ?」

「いえっ、違います! 本当にすみませんでした!!」


寝過したこともバレている。

勝手に接待の約束を取りつけてきたのに何たる失態。


情けなさで涙が出そうだったけれど、ここで泣くのは絶対に違うと思って必死で堪えた。
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