甘え下手
苦い現実
「なあ、鳴ってるの翔馬のケータイじゃねーの?」

「ああ」

「出ないの? また女? 鬼畜だねー」


火曜日の会社帰り、偶然仁と一緒になったから近くの定食屋で飯を食っていた。

仁がうるさいからポケットからスマホを取り出して、とりあえずディスプレイを確認する。


『百瀬沙綾』の文字を確認すると、そのままスマホをカウンターの上に置いた。

それをのぞき込んだ仁が「沙綾ちゃんといつの間に番号交換したんだよ!」と不満を口にしだす。


「いつだっけ。この間、鍋食ったときか」

「鍋!? なんなの、ソレ! なんで呼んでくんないの!?」


わぁわぁうるさい仁を横目に、黙ってスマホを操作して留守電に切り替えた。


そういえばなんで仁は呼ばれなかったんだろう。

百瀬比奈子に対する日ごろの行いがよっぽど悪いに違いない。


「で、なんで出ないの?」


仁が箸でつつく仕草をしながら、興味津々といった感じで目を輝かせている。

俺は黙って鯖の味噌煮を口に運んだ。
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