甘え下手
会社近くの定食屋は安さと美味さに定評があり、終業後だというのにうちの社員がチラホラといた。


「メンドくさいから」

「えっ、お前まさか女に興味がなくなったんじゃ……」


見当違いな疑問を投げかける仁に、呆れて笑えてくる。


「比奈子ちゃんの妹だからメンドくさい」

「あー、そっち系? でも比奈子ちゃん本人ならともかく、沙綾ちゃん会社と関係なくねえ?」


「でも確かにヤリ逃げは許されないわな。比奈子ちゃんの逆鱗に触れる」なんてウンウンうなずきながら、勝手に俺のスマホを手に取った。

着信履歴から沙綾の番号を表示してかけ直す。


「勝手に何やってんだよ」

「俺、沙綾ちゃんと飲みたいもん。お前と違って俺は沙綾ちゃんなら本気で付き合いたいもん」

「何が"もん"だ。ぶってんじゃねぇ、気持ち悪い」

「あ、沙綾ちゃん? オレオレー」


電話は仁によって勝手に繋がってしまい、仕事帰りの沙綾と合流して飲みに行くことになった。

べつにいいけど。


「どうせなら姉も呼べば?」

「比奈子ちゃん? 比奈子ちゃんは愛の逃避行中だよ」
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