甘え下手
分かってるけど、優しくしてやる気なんて毛頭ない。


『……せっかく家族が揃うんだもの。翔馬くんにも来てもらおうって思うのが、そんなに不自然かな。前にも言ったでしょう。もっと実家に甘えていいって』

「そこにアンタの下心がないならね」

『……翔馬くん』


泣きそうな声。

さすがにちょっと言い過ぎたか。


「……考えとくよ」

『ねえ、翔馬くん。少し話せない?』

「悪いけど今、女といるんだ」


触れそうな距離にあった細い腰を思いきり引き寄せる。

甘い髪に唇を押し当てて、その匂いを胸に吸い込んだ。


『……そう。お邪魔してごめんなさい』

「べつに」

『おやすみなさい……』

「おやすみ、優子さん」


消え入りそうな細い声が途切れて、無機質な機械音が耳に大きく響いた。
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