甘え下手
イライラが二乗になった俺は、黙ってスマホをポケットにしまった。

代わりに煙草を取り出して口に咥えようとしたとき、ようやく自分が抱き寄せている沙綾の存在を思い出した。


突然抱き寄せられたにも関わらず、沙綾はガッチリ俺の背中に手を回しホールドしている。


「……おい」


しまった。

いつもの適当な女のつもりだった。


自分から抱き寄せておいて突き飛ばすわけにもいかず、どう対応しようか考えあぐねていると、「あーっ」という仁の悲鳴にも似たデカイ声が響き渡った。


「コラーッ。お前ら何やってんだよ! ここはラブホじゃねえっての!」

「えー。仁さん戻ってくるの早ーい。早すぎっ」

「ちょ、沙綾ちゃん。俺さっきまでずっと便器とトモダチだったのよ? 心配は?」

「明日仕事なのに吐くまで飲むなよ」


沙綾が自然に俺から離れたから、内心ホッとしていた。

だけど。


「ねえ、優子さんって誰?」


沙綾は遠慮を知らない女だった。
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