甘え下手
「だから阿比留さんのお家には行けません……」

「意味分かんね」

「だってさーちゃんは……」

「俺のことが好きだろうって? アンタ本気でそんなこと思ってんの?」


百瀬比奈子は俺が沙綾の気持ちに気づいていないとでも思っていたのか、俺のセリフに目を見開いてこちらを見た。


「ど、どういう意味ですか……?」

「アンタが櫻井室長を思ってた六年間と、沙綾が俺のことを気に入ったと思ってる数ヶ月間を同じ尺度で見るわけ?」

「同じっていうか……」

「もういいからしゃべんな」

「……」


さすがに妹に気を遣いすぎだろってイライラした。

こうして自分に寄ってきた男まで追い払って。


意図的に不幸に身を落としてるとしか言いようがない。

兄弟に遠慮して身を引くとか、ホント馬鹿すぎて萎える。


――翔馬くん、ごめんね。


黙っている百瀬比奈子の隣で、俺の頭の中では彼女の声がリフレインしていた。
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