甘え下手
「……私に気を遣ってくれたんだと思います」


続いてつぶやたネガティブなセリフに、阿比留さんは「ふーん」とたいして興味なさそうに返事をしただけだった。


「なんか飲む? チューハイとか?」

「……はぁ」


二回目の阿比留さんの部屋に入っても、まだ私はここにいていいのかどうかを迷っていた。

お酒を飲んでいいのかどうかも。


コトリと目の前に置かれたのはノンアルコールの梅酒だった。

阿比留さんはビールのプルトップを開けている。


「ノンアルコール……?」

「飲みたいなら普通の酒もあるけど、飲みたくなさそうだったから」

「だって明日普通に会社じゃないですか……」

「比奈子ちゃん酒強いんじゃなかったの?」

「飲んだら止まらなくなりそうだから迷ったんです……」


阿比留さんは肩をすくめて、「ご自由にどうぞ」と言った。


本当は飲んで飲んで、この思考回路を停止してしまいたい。

傷ついて迷ってぐじぐじしている自分を消してしまいたい。


だけどこの思考はとても危険だ。
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