甘え下手
そのままきれいな顔が少し傾いて近づいて……私の瞼はパタリとその幕を下ろした。

ふわりと柔らかい感触が唇に広がって、ついばまれるように挟まれて、チュッと音をたててそれは離れていった。


触れるだけの優しいキス。


離れていく感触に緊張が解けてホッとするような寂しいような感覚に捉われる。

思わず目を開けると、優しい瞳の阿比留さんと目が合った。


「可愛いね、比奈子ちゃん」


赤くなってるだろう私の頬を軽く親指で擦る。

胸がどうしようもなく高鳴って、私は深呼吸するように深く息を吸った。


こんな風に優しい瞳をするのに、優しい言葉をかけてくれるのに。

阿比留さんは自分のことを優しくないって言う。


私はきっとまだまだ阿比留さんのことをよく知らない。


「こっちおいで」


阿比留さんが私の腕をつかんで軽く引く。

私の身体は引き寄せられるように阿比留さんの腕の中に収まった。
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