甘え下手
最初の夜
いつも微かに香るぐらいだった阿比留さんの香水が鼻腔いっぱいに広がって、頭がクラクラと混乱する。

あれ、これって現実だよね?


「こうやって腕の中に収まると意外とちっちゃいんだな」

「阿比留さんは思ったより身体おっきいですね……」


恥ずかしいから阿比留さんの胸に顔をうずめたまま、ボソボソと会話した。


今までで一番阿比留さんの近くにいる。

恋人同士でもなきゃありえないような距離で。


それが信じられなくて、意識すると頬が燃えるように熱くなる。

阿比留さんはといえば、慣れた様子で私の髪の毛を手で梳いている。


「首まで赤くなるんだなー、比奈子ちゃんは」

「……放っておいてください」


髪をかきわけられて首筋があらわになる。


「てか泣きやんだな」

「……ビックリして」


平坦だった私の人生が突然急転直下のジェットコースターに乗せられてしまったようで。

めまぐるしく変わる環境に頭がついてこないのが現状だった。
< 206 / 443 >

この作品をシェア

pagetop