甘え下手
「会社入るまで見ててやるから、行け。頑張れるな?」

「はい」


阿比留さんからキスのおまじないまでもらっちゃったし、ここで逃げるわけにはいかない。

阿比留さんが見てるからしゃんとしなくちゃと思って、背筋を伸ばして会社への道のりを一人で歩きだした。


さっきのキスのせいで、このドキドキがもう緊張なのかなんなのか分からなくなってるし。

阿比留さんはランプの魔人じゃないと言ったけれど、私の足は魔法にかかったかのように軽くなった。


一人でも頑張れると思ってた、だけど背中を押してくれる人がいたらもっと頑張れる。

だから寄り添える人がいるということは、とても幸せなことなんだと知った。


早い時間に出てきたので、フロアにはまだ人はまばらだった。

櫻井室長もまだ来ていない。


参田さんもチーフもいないデスクで私は買ってきたマフィンとコーヒーで朝食をとった。

会社で朝食を食べるなんて初めてで新鮮な気持ちだった。
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