甘え下手
「ランプの魔人じゃねーから」

「デビルさん助けてくださいって呼びますね」


私が冗談めかして胸のボールペンを撫でると、阿比留さんが私との距離をさらに一歩詰める。

なんだろう、怒られるのかなと思って阿比留さんの顔を見上げると、一瞬だけ顔が近づいてチュッとキスをされた。


まだ早い時間とはいえ大通りだし、会社の近くだしで目を真ん丸にする私を見て、阿比留さんがプッと吹き出す。


「面白れー顔」

「あ、あ、阿比留さん、会社の人に見られ……」

「俺は構わねーけど」


ぶんぶんぶんっと私は勢いよく首を振った。

社内では芸能人的存在の阿比留さんとこんなことしてるなんて知られたら、恐ろしいことになるっ。


表情だけで私の言いたいことが分かったのか、阿比留さんは肩をすくめて苦笑した。


「比奈子」

「は、はい」

「こっから別々に行くか。先に行けよ」

「……はい」
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