甘え下手
私、こういう『格好良い人』ってどちらかといえば苦手だったんだけどなー……。

不思議なものだと思いながらボーッと見つめていると、阿比留さんが私の巻いた毛先をつまんで、くるんと弄んだ。


「可愛いじゃん、コレ」

「あ、ありがとうございます……」


ぽーっとなってしまう。たぶん私だけじゃなくて女の子なら誰でも。

阿比留さんはこういうのきっと計算じゃなく自然にやってるんだろうな。


車の助手席に乗ると、まだ明るい時間だからか、私の気持ちの変化なのか、狭い密室に二人きりだったことに妙に緊張する。


飾り気のない車内にはミントの香りがわずかに漂っている。

この間は気がつかなかったけど本革のシートや内装は高級車っぽい気がした。


あまり乗っていないと言っていたけど、阿比留さんは車好きなのかもしれない。


「何? どした?」

「いえ、よく見ると高そうな車だなーって……」

「うちの会社の給料で買えるわきゃないって?」

「ち、違いますよ! 阿比留さん残業いっぱいやってるし、そんなこと思ってません!」
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