甘え下手
ロングのストレートヘアをハーフアップにして軽く巻く。

沙綾がいたら誰とデートなんだって突っ込まれただろうけど、幸いなことに今日も仕事で家にはいない。


お兄ちゃんは彼女とデートに出かけていて、これまたいない。

私には都合の良い展開だけど、緊張を紛らわす相手がいない分、私はずっとそわそわしっぱなしだった。


阿比留さんは前に乗せてくれた車で家まで迎えに来てくれて、電話じゃなくわざわざインターホンを鳴らしてくれた。

スマホばかりを見つめていたから、私は予想外のその音に「ぎゃっ」と飛びのき、慌ててバッグをつかむと自分の部屋を飛び出した。


若干足がもつれぎみになりながら、パンプスをひっかけて玄関のドアを開ける。

ブーツだと脱いだり履いたりに時間がかかるかもって、恋愛初心者らしい小さな不安から。


だってしょっぱなからご両親の前でヘマしたくない……!


「出てくんの早ぇな。走ってきたの?」


飛び出す勢いで姿を現した私に、阿比留さんが苦笑する。

今日の阿比留さんは、黒のニットにデニム着姿。


相変わらずそこに立っているだけでモデルさんみたいに様になっている。
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