甘え下手
しかもどう考えてもこれは「あーん」の構図だ。

二人っきりの時でさえ、そんなことしてもらったこともないのに、ご家族の前で「あーん」なんてできるわけない……!


「い、いただきます」


さっと阿比留さんからキュウリを奪ってガブッとかぶりついた。

阿比留さんがマズいなんて言うからドキドキしながら食べたけれど、お上品なソースの味は美味しかった。


「美味しい……!」

「ホラごらんなさい」


勝ち誇ったように笑うお母様が嬉しそうだから、私はホッと安心をした。

心からの「美味しい」だったから、お世辞じゃないのが伝わったみたいだ。


それにしても私が苦手な味だったらどうする気だったんだろう。

全く阿比留さんにはハラハラさせられっぱなしだ。


当の本人は素知らぬ顔でメインのミートパイを食べている。

目が合うと「食う?」とばかりに食べかけのフォークを差し出してくるから、慌ててぶるぶると首を振った。


家族の前と恋人の前で態度が違う男の人って少なからずいるかもしれない。

だけど阿比留さんの場合はそれとちょっと違うような……。
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