甘え下手
和やかとはほど遠い雰囲気で食事会は始まった。

阿比留さんはもちろん何も話さない。


ただ、お母様は席には座らず、お兄さんやお父様に話しかけながら、せっせとミートパイを取り分けている。


「ちょっと天馬(たかま)。こっちのバーニャカウダから食べてよ。ソースが冷めちゃうじゃない」

「何から食べようと自由だろ」

「全く生野菜が嫌いなんて子どもじゃないんだから……。翔馬は食べられるわよね」

「野菜どうこうよりこのソースまずくね?」

「ちょっと何てこと言うのよ。ちゃんと料理教室で習ってきたんだからそんなはずないでしょう!?」


阿比留家のお母様はよくしゃべる方らしい。

そして食事開始五分で分かった。


お母様が息子たちを溺愛しているということが。


「ホラ、比奈子も食ってみ?」


阿比留さんがキュウリにたっぷりソースを絡めて顔の前に近づけてくる。


ちょ、ちょっと……。


私は無言で内心ダラダラと汗をかくだけだ。

このタイミングで私に食べろって?
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