甘え下手
「今度翔馬くんが帰ってくる時にはハンバーグ作るから」


優子さんが阿比留さんに向かって微笑んでそう言ったから、一瞬周りは静まり返った。

優子さんの微笑みは強張っていて、この一言を言うのにすごく勇気が要ったんだなって分かる。


「ああ、楽しみにしてる」


お母様は顔全体で面白くないって心情をアピールしていて、阿比留さんは逆にそれが面白くてたまらないようで笑いを噛み殺してそう言った。

お兄さんは呆れたため息をこぼしてる。


お父様は我関せずといったご様子。

私はどういう顔をしていいのか分からない。


ただ胸のモヤモヤの体積が増えていくだけだ。

阿比留さんはどうしてここに私を連れてきたんだろうと思った。


食後のコーヒーを終えるとお兄さんとお父様は早々に席を立ってしまった。

阿比留さんもそれに続いて、私を促して部屋から出ようとする。


「あ、あの後片付けぐらい手伝います……」

「いいのよ、お客さんなんだから。ゆっくりして行ってちょうだい」


不機嫌なままのお母様は一人イスに座ったままで、来た時と同じセリフを投げやり言うだけだった。
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