甘え下手
「今度はハンバーグ作ってよ。ポテサラとハンバーグ」

「……え」

「ハンバーグぐらいお母さんだって作れるわよ」

「どうせ凝りに凝ったデミグラスソースとかで煮込むんだろ? 俺は普通のが食いたいの」


阿比留さんは意外にお子様メニューが好きみたいだ。

私はまた新たな阿比留さんの一面を知ってぽーっとしていた。


だけどお兄さんは違った。


「人の嫁さんに手料理頼むなんて図々しいな。お前はそこの彼女に作ってもらえばいいだろ」


クッと眉間にしわを寄せて不機嫌さを露にしたお兄さんは、阿比留さんよりさらに迫力がある。

そこでここは私の出番だったのかとハッと我に返った。


「比奈子ハンバーグ作れる?」


阿比留さんはそんなお兄さんを特に気にする様子もなく、今度は私に話しかけた。

私は場の雰囲気に飲まれて声が出ず、コクコクとうなずくだけしかできなかった。


だってお母さんの手前、どう答えていいのか分からないし。


「わ、私……!」


そんな中で響いたのはお母様の声じゃなく、優子さんの声だった。
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