甘え下手
優子さんが知る初めてって言っても、優子さんがこの家に住み始めてからの話だから最近なんじゃないのかな。


「優子さんは天馬さんとご結婚されて長いんですか?」

「結婚は2年ぐらい……だけど翔馬くんのことは中学生の頃から知ってるわ」


ふふ、と懐かしそうに優子さんが目を細める。


「私、翔馬くんの家庭教師だったの」

「えっ。そうなんですか!?」

「そうそう。翔馬くん、今と違って全然私の言うことなんて聞いてくれなくて」

「本当に素行不良だったんですか?」


思いも寄らぬ阿比留さんの昔を知る人の出現に、私の好奇心は留まるところを知らなかった。

私の知らない学生時代の阿比留さん。


どんな子だったのかすっごく興味がある。


「どうかな。変なこと言ったら翔馬くんに怒られそうだしな」

「えー。内緒で教えてくださいっ」


きゃっきゃっと盛り上がりつつも、優子さんはお母様をチラチラとうかがうことは忘れない。

私も状況と場所を忘れちゃいけないと自分を正して、グラスを洗う手を動かした。


「……だけど優しいのは今と変わらなかったかな」

「え……」
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