甘え下手
目を細めて昔を懐かしむような優子さんの表情を見た時、私の心の森はざわざわと葉っぱを揺らして音を立てた。


「翔馬くん、優しいでしょう?」

「……は、はい」


阿比留さんは優しい。

それはずっと私だって思っていたこと。


恋人を褒められたはずなのに、どうして私の心は弾まないんだろう。


――言うこと聞いてやるのは、優しいんじゃなくてソイツに興味がないだけ。


阿比留さんは自分のことをそんな風に言っていたけど――。

優子さんが言っている「優しい」は私が感じている「優しい」と同じ気がした。


「翔馬くんのそういう部分知ってるの、私だけだと思ってたからちょっと嫉妬しちゃうな」

「え……」


それは今、まさに私が思っていたのと同じことで。

どうして優子さんがそれを言うんだろう。


「……冗談よ」

「え?」

「今の。冗談よ」

「……あ、そうなんですか」

「比奈子ちゃんって可愛い」
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