甘え下手
その声には反射的に首を振ってしまった。

阿比留さんはふっと口元を緩めて、さっきと同じように顔を傾けて近づいてくる。


さっきと違うのはまぶたを下ろすタイミングで唇が重なったこと。


温もりと柔らかさを直に感じて、トクトクと鼓動が心地良いリズムを刻む。

ゆっくりとその感覚に浸っていると、阿比留さんの唇が私の唇を食むように動く。


そのくすぐったいような感覚に身を竦めていると、背中に腕を回されてギュッと抱きしめられた。

本格的になるキスに、他人のお宅で何をやってるんだろうと不安に思う自分がいるのに、私の腕は阿比留さんにしがみつくように背中に回っていた。


いつの間にか私は阿比留さんのことがすごく好きになっていたみたい。

だから阿比留さんがこの家で寂しい思いをしていたんじゃないかと思うと、胸がギューッと苦しくなる。


そして阿比留さんをいっぱい抱きしめてあげたくなる。

私がこうして阿比留さんに満たされるように、私も彼を満たしてあげることができたらいいのに。


そんな想いで夢中でキスに応えていた。
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