甘え下手
いかにもそれが自然だと言わんばかりの俺の口調に、比奈子は納得できない様子で首を傾げた。


「……深い意味はないってことですか?」

「深い意味あった方が良かった?」

「深い意味って?」

「それ俺が聞きたいんだけど」

「うーん……。分かんないですけど、初めてのデートが実家って特殊なのかなって思いました」

「あー、デートね。これもデートか」

「いやっ、違うかもしんないですけどっ」

「まあ、こだわんなくていいんじゃね?」


女にとって初めてのデートってヤツは大事らしい。

今までいい加減な付き合いしかしてこなかったから、そんなことに気が回らなかった。


複雑な表情をしている彼女を横目で見ながら、悪いことをしたかなと今さらになって思う。

この子、まともに付き合ったことなさそうだし。


その分純粋に、恋愛に対して夢見てたのかもしれない。

俺なんかじゃその夢の半分も叶えられそうにないけど、それでもちょっとは努力してみようかなと思った。


車は高速を下りて彼女の自宅がある住宅街へ進んでいた。
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