甘え下手
「ここでいい?」

「……」


以前は酔った彼女を抱えて玄関まで入ったことはあるが、今日は酔ってるわけでもないし、怖いと噂の兄ちゃんにわざわざ顔を見せる必要もない。

そんな意識から家から少し離れた路上に車を停めて彼女を見た。


比奈子はこちらを見ずにダッシュボードに視線を落として黙っている。


車でサヨナラってのが気に入らないのか?


「家まで送るか?」


比奈子が黙ったままぷるぷると頭を振った。


「あ、ドア開かないとか?」


ロック外れてるはずだけど。

上半身を彼女の方へ伸ばして、助手席のドアを少し開けてやる。


開くじゃん。

そう思って身体を運転席へと戻そうとしたところで、彼女の両腕が伸ばした俺の腕に巻きついた。


そのままギュッと腕を抱きしめられる。

意外な行動に目を丸くして固まった。
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