甘え下手
この家では兄が父親代わりだから、そんな簡単に暴露していい話題ではない。

その証拠に呆れ顔だったお兄ちゃんの顔が、すっとシリアスに戻った。


「何だと?」

「だからぁ! お姉ちゃんが私が目を付けてた阿比留さんに」

「わー! わー! わー!」

「阿比留ってこの前、比奈子のこと送って来た男か」


お兄ちゃん、眉間のシワ深すぎ!

しかも阿比留さんの名前覚えてたんだ!?


送ってもらった時は付き合っていたわけでもないのに、ちゃんとお兄ちゃんに自己紹介までしてくれたんだなと思うと、嬉しい気持ちがこみあげる。

阿比留さんは自分のこと素行が悪かったなんて言ってたけれど、十分に紳士な人だと私は思う。


「ソイツが沙綾と比奈子両方たぶらかしてんのか」

「だって阿比留さん素敵だも~ん」

「た、たぶらかしてなんか」

「しかもソイツは沙綾じゃなくて比奈子の方を選んだってこと?」


お兄ちゃんが心底不思議そうな顔をする。

相変わらず失礼な兄貴だ。
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