甘え下手
「お姉ちゃん!」


自分の部屋に入ろうとドアを開けたところで、後ろからドタドタと階段を駆け上って来た沙綾に声をかけられた。


「……何?」

「あの時、牽制したのは阿比留さんがお姉ちゃんを気にしてるって分かってたからだよ」

「え……」

「だけど私は負けない!」

「……」

「ああ言っとけばお姉ちゃんなら引いてくれるって思ってた。だけど恋愛に早い者勝ちなんてないって言うんだったら、先に付き合った方だって勝ちじゃない!」


普段は見ることのできない沙綾の真剣な顔つき。

パッチリした目で真っすぐ見られると睨まれたような気がして身体が固まる。


妹の本気を知って。

勝手に喉がゴクリと鳴る。


そして沙綾が言うことに納得している自分もいたから、彼に手を出さないでなんて言える立場じゃないことも自覚していた。

だってきっと普通に阿比留さんが「付き合おう」って言ってくれていたら、私は妹に遠慮して断っていたかもしれない。


阿比留さんが私の手を取ってくれたあの夜、私は確かに自分のことしか考えてなかった。
< 286 / 443 >

この作品をシェア

pagetop