甘え下手
気持ちを伝える夜
今までで一番長いキスは私から思考能力を奪いさった。

何も考えられない。


自分がしがみついてる阿比留さんの腕と、口内で感じる熱い温度だけが私を支配する。

何度も角度を変えて口づけられて、残念な私は息も絶え絶えな感じになってしまった。


それに気づいた阿比留さんが顔を離して、「ホラ、比奈子息吸って」と呼吸を促してくれる。

その声に従ってゆっくりと深呼吸するように空気を肺に取り入れた。


「比奈子ポーっとした顔してる」


そんなこと言われたら恥ずかしくて顔を隠したいのに、ぼんやりした私は焦点の合わないまま阿比留さんの顔を見つめることしかできなかった。

阿比留さんの目が細められる。


「そんな目すんなって」

「そんな目……?」

「男を煽る目」


阿比留さんがイタズラっぽく笑って、私の頭を撫でる。

やたらしっかりした子どもだった私は、頭を撫でられるという行為にすら慣れていなかった。


だからか私は頭を撫でられるのにすごく弱い気がする。

参田さんに気軽に撫でられないように気をつけているのもそのせいだ。
< 312 / 443 >

この作品をシェア

pagetop