甘え下手
だけど帰ると言ったのは自分だから仕方ない。

しょんぼりお皿を洗っていると、いつの間にかそのスピードは遅くなり、少しでも長い間この部屋に留まろうとしている往生際の悪い自分に気づいて苦笑する。


「比奈子」


そんな私の様子に気づいたのか、後ろに立った阿比留さんが私の腰に手を回して抱きついてくる。

誘惑レベル2だ。


「ダメです」

「素直じゃない女は可愛くないよ?」

「……」


冗談でも阿比留さんに『可愛くない』って言われると悲しい。

実際、可愛くない態度取ってるのは私なんだけど。


「ウソ。比奈子は可愛いよ」


私の肩に顎を乗せてきたり、洗ってる間中、こうやってベタベタしてくる阿比留さんは、実は甘えたな男の人なんだと思う。

これも付き合って初めて知った事実。


異性をくすぐる天性の才能を備えてるんだろうな。

やっぱり阿比留さんはさーちゃんと同じ人種かもしれない。
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