甘え下手
洗い物を終えた手をタオルで拭きながら、そっと阿比留さんの拘束を解いた。


「週末になったら……」

「なったら?」

「と、泊まらせてください……」


なんだか自分から言い出したみたいで恥ずかしいと思いながら言うと、阿比留さんは嬉しそうに私を正面から抱きしめてくれた。


「比奈子」

「……はい」

「いっそのこと、一緒に住んじゃう?」


ドキンとひと際大きく心臓が跳ねた。

色んな意味でドキドキが加速する。


どう答えようなんて思う数秒の間に阿比留さんが再び口を開いた。


「なんてな。兄ちゃんに殴られるな、マジで」


冗談で終わってしまったその会話に、阿比留さんはそれ以上答えを求めることはしなかった。


言ってくれた言葉はたぶん、半分本気。

私がひとり暮らしだったりしたら、本当にそう言ってくれていたかもしれない。
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